ポエトリーアングル

詩やことばについてのさまざまなことがらを。

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2014年3月28日金曜日

2014年3月の「旅」


「屋根裏ポエトリー・ナイト」で読んだ詩を掲載します。
最近作った詩の間に、10年前に作った詩と、先日亡くなられたまど・みちおさんの詩をはさんで読みました。





「旅の始まり」

「おはよう」と発車のベルが鳴る
目的地は確認できないまま
まだ見たことの無い風景を求めて
どこか遠くへと 行きたいと思っている

隣の人がなにやらぶつぶつとつぶやいている
冷たい風が苦手なのか、雑音が苦痛なのか
「言ってきます」といって立ち上がり、
「行ってきます」といってどこかへ行った

向かいの席に、名前は思い出せないけれど
知った顔があったので、声をかけてみた
でもそれは人違いのようで
「初めまして」と挨拶された

のんびりしてたら、
いつの間にか、知らない風景を走っていた
そろそろ降りなきゃと思ったら
うとうと眠ってしまった



「春がすみ」 まど・みちお

いちめん ほわほわの 春がすみ
ぼくは海のまん中に うかんでいて
ぷわん ぷわん あそんでいる

うまれる まえの ことなのやら
しんでからの ことなのやら
どっちなのやら わからないけれど
どっちかなのは よく わかる

どっちかなのは よく わかるけれど
なぜ よく わかるのかは
なぜだか よく わからないけれど

いちめん ほわほわの 春がすみ
ぼくは空のまん中に ねころんでいて
でたらめうたなんかを うたっている




「ノン・アルコール」

環状線を2回まわって
3時半の位置で降りたとき
既に飛行機は大気圏を突破していた

しかたなくタクシーを止め
「前の車を追って」と告げると
動物園の前で降ろされた

ライオンは寝ていて
ペンギンは日焼け止めを塗っていて
ワニは入れ歯を探していた

そういえば歯が痛かったことを思い出し
歯医者を探していると
檻に入れられたウルトラマンを見つけた

怪獣と恐竜の区別が付かないまま
案内板の矢印にそって進んでいくと
何もない部屋があった

しばらく横になっていると
飼育係のおじさんが
「酔っぱらい」という看板を立てていった




「コオロギが」 まど・みちお

コオロギが鳴いている
のを 私がききほれている
のを コオロギは知らない
と 私が思っている
のは けれどコオロギにかぎらない
空をとぶ小鳥にでも
道ばたに咲く草花にでも
どんな物にでもなのだ
一方的であるほかないのだ
いつだって人間は
と 私が考えている
のを しげしげと見おろしている
あの星空のはるかな所から
私の知ることのできない何かが
かぎりなく一方的に
と だけは私にも思わせて
コオロギが鳴いている



「旅の終わり」

いつもの風と、いつものノイズ
瞼を開けると、
目の前に広がる景色は
見慣れたものだった

「自分で表札を出すにかぎる」と言ったのは、石垣りん
「東京に空が無い」と聞いたのは、高村光太郎
「見えぬものでもあるんだよ」と感じたのは、金子みすゞ
「ゆあーんゆよーんゆやゆよん」と、中原中也

それでもみんなが
一本のレールの上を走っていることに変わりはない
同じ風景を見ている
ただ、感じ方が違うだけ

間もなく到着するであるはずの終点も
そこで終わりではない
それぞれの意味がある
「おやすみ」と汽笛が鳴った