ポエトリーアングル

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2013年4月24日水曜日

「てつがくのライオン」工藤直子



 ライオンは「てつがく」が気に入っている。

 かたつむりが、ライオンというのは獣の王で、哲学的なようすをしているものだとおしえてくれたからだ。


 きょう、ライオンは「てつがくてき」になろうと思った
 哲学というのは、すわりかたからくふうしたほうがよいと思われるので、しっぽを右にまるめて腹ばいにすわり、右ななめうえをむいた。
 しっぽのまるめぐあいからして、そのほうがよい。しっぽが右で、顔が左をむいたら、でれりとしてしまう。
 ライオンが顔をむけたさきに草原がつづき、木が一本はえていた。
 ライオンは、その木の梢をみつめた。梢の葉は、風に吹かれてゆれた。ライオンのたてがみも、ときどきゆれた。
(だれかきてくれるといいな。「なにしてるの?」ときいたら、「てつがくしてるの」ってこたえるんだ)
 ライオンは、横目で、だれかくるのをみはりながら、じっとしていたが、だれもこなかった。
 日が暮れた。ライオンは、肩がこっておなかがすいた。
(「てつがく」は肩がこるな。おなかがすくと、「てつがく」はだめだな)
 そこでライオンは、きょうは「てつがく」はおわりにして、かたつむりのところへいくことにした。

「やあ、かたつむり。ぼくはきょう『てつがく』だった」
「やあ、ライオン。それはよかった。で、どんなだった?」
「うん、こんなだった」
 ライオンは、「てつがく」をやったときの、ようすをしてみせた。
 さっきと同じように、首をのばして、右ななめうえをみると、そこには夕焼けの空があった。
「ああ、なんていいのだろう。ライオン、あんたの哲学は、とても美しくて、とてもりっぱ」
「そう?・・・とても・・・何だって? もういちどいってくれない?」
「うん。とても美しくて、とてもりっぱ」
「そう、ぼくの『てつがく』は、とても美しくて、とてもりっぱなの? ありがとう、かたつむり」
 ライオンは、肩こりもおなかすきもわすれて、じっと「てつがく」になっていた。




*ハルキ文庫「工藤直子詩集」工藤直子/2002718日第一刷発行 より抜粋